ブリジットの物語

「嬉しかったこと」

やっぱり、苦労した仕事でお客さんに喜んでもらえるのが、一番嬉しいかな。
つい最近感動しちゃったのは、ほら、前に話したじゃない?すっごい性格の悪い罠があった、砦の廃墟。
あそこで死んだ領主ってのが、さすが、あの罠を発注した奴だわ、ってくらい、やっぱりすっごい性格悪い奴で、まあ、だから領民の反乱にあって、あそこに追い詰められたって話なんだけど、領主がそこに持ち込んだ宝を取ってきてほしい、って、ある貴族の奥様から依頼だったのね。
それであたしはあの根性曲がりの罠を突破して………その苦労話をすると、夜が明けちゃうから、またね………お宝部屋に到達したわけよ。
いやあ、扉を開けた途端に、領主の遺体とご対面!すっかり骸骨さんになっててくれたんで助かったけど、腐りかけの死体の横で探し物なんて、いくらあたしだって勘弁よ!
お宝はね、うん、あったよ。部屋はいわゆる金銀財宝ざっくざくだったけど、目的はそれじゃなくて、領主の骸骨さんが、抱えてた小箱。
多分、覚悟して、あの部屋にこもったんだろうね。椅子に座ってて、心臓の位置に剣がざっくりささってて、着ていた豪華な服も血だらけでぼろぼろになってて、その膝の上に、乗ってたの。やっぱり血まみれだったけど、金張りで小さな鏡や宝石なんかもはまってて、ん〜、鏡台の前に置いておくアクセサリー入れみたいな、ちょっとかわいい感じの………正直言って、性格悪い領主には不似合いな、そんな箱。
こりゃ、気合入ってるな、って思ったから、骸骨さんに向かって、これこれこういう依頼で来ました、って断って。だって、箱に触ったとたんに骸骨さんが動き出したりしたら、いやじゃない?あるのよ、そーいうこと。そしたら、あたしが箱を取り上げた時に、骸骨さん崩れちゃったから、了解してくれたんだと思う。
で、めでたく依頼主の奥様に箱を届けて、お仕事完了。でね、奥様が、その場で箱を開けて、中身を見せてくれたの。
あたし?うん、開けなかったよ。だって、鍵かかってたもん。いや、はずそうと思えばはずせたけど、奥様が「箱を取ってきてくれ」って言ったんだから、中を見るのは礼儀違反でしょ?
中身は、ラブレター。昔、奥様が結婚前に、領主に送った手紙が何通も。
昔は、恋仲だったんだって。箱も、奥様のプレゼントだったんだって。だから、奥様が箱の鍵を開けられたわけ。
でも、事情があって結ばれなくて、領主が性格悪くなったのは、それからなんだって。
もう結婚しちゃった人からの手紙を、死ぬ時まで大事に持ってたくらい、好きだったんだろうね。それから、領主から奥様への手紙も、一緒にその箱に入ってたの。うん、出せなかった手紙よね。あたしも読ませてもらったけど、もう、奥様と二人で大泣き。それで、奥様があたしに、「ありがとう」って。
ずっと気にしてたんだって。領主の暴走は、自分が他の人と結婚したせいじゃないか、って。恨まれてたんだろうな、って。
でも、領主からの手紙を読んで、ふっきれたみたい。世間に対する苛立ちとか、自分が積極的に出られなかったせいで他の男に彼女を取られちゃった後悔とか、色々書いてあったけど、奥様に対する恨み言なんかひとつもなかったから。すごく不器用で、でも一途な想いを綴った手紙ばっかりだった。
ねえ、結局、お宝っていっても、領主と奥様の二人にとってだけの宝物だったわけで、普通に値段をつけたら、小箱なんてたいした額のものじゃないし、中身といったらそれこそ紙くず同然のものでしょ。あの部屋の周りに積まれてた財宝のひとつでもくすねてきた方が、よっぽど高値がつくくらい。
でも、あたしは遺跡荒らしじゃないもの。奥様は報酬もたっぷりはずんでくれたけど、それよりも「ありがとう」の一言の方が、あたしにはずっと嬉しくて。この仕事をやっててよかった、って、心からそう思ったわ。
あんたには、探してほしい宝物はない?他人にはどんなにくだらない物でも、あんたにとってそれが大切な宝物なら、あたしに探せる物なら、探してあげる。
その代わり、そこにどんな物語があるのか、教えてね。それが、あたしにとって一番の報酬だから。



「かなしかったこと」


「夢だと思っていた人が、本当は夢じゃなくて、でもそれが判った時には、もう夢でしか会えない人になっていた」ってことかな。
意味、判んない?
子供の頃、「月の砂漠の王子様」に会ったの。ほら、おとぎ話に出てくるでしょう?満月の夜にだけ砂漠に現れる蜃気楼の王宮に住んでる王子様。
夢を見たんだと思ってたんだけど、実は現実だった、って最近になって判ったの。
もちろん、その人はおとぎ話の登場人物じゃなかったし、住んでたとこも蜃気楼の王宮じゃなかったけどね。
でも、その人はもういないっていうのも、一緒に判っちゃったの。
夢の正体が判っちゃったのが悲しいのか、その人がもういないのが悲しいのか判んなかったけど、何だかすごく切なくて、ぼろぼろ泣けちゃった。
だって、あんなにきれいで、ちょっと怖くて、すごくドキドキしたすてきな夢だったのに。

んー………。
詳しく話そうか?でも、長いよ?

FIN