ルドルフの物語 『3人の出会い』

夕暮れ
燃えるような赤い色がミゼルドの街を染め、明星が輝き出す時間
ジャックは大きく深呼吸をした
街の角、角から屋台が並びはじめ食べ物の香りが漂ってくる
香ばしい干し肉を焼いたにおいに甘酸っぱい果実酒の香り
きゅるるる
腹が鳴る
ジャックは思わず苦笑しながら、今晩の酒の肴を何にするか決めあぐねていたときであった

目の端を影が横切った。
鋭く視線を走らせると屋根の上に音もなく四つん這いで走る大男の姿があった
かなり速いが人間と言うより動物に近い動きだった
眉の音を寄せてきっかり30秒それを見つめてしまう
(昼間居たあいつだ・・・・・面倒だな)
なにも見なかったふりをしようと首を巡らせたとき隣で怒鳴り声が響いた
「あんた!そんなところ登っていないで降りてきなさい!」
振り返ると浅黒の肌に大柄な女性が立っていた

大男も目をぱちくりしながら女性を眺める
「悪い事する訳じゃないんだ、良い子だから降りてきなさい」
自分よりも遙かに身の丈が大きい巨人に対してまるで幼子に対するように敢然と言い切る
ジャックは驚きながら状況を見守った
もし、大男が女性を襲うのならば守らなければいけないかな、そういうことを考えてもいた

次の瞬間、恐ろしい跳躍力で大男は女性の前に降り立った。
周りの人間が驚き身を引いて伺うが女性は眉一つ動かさない。
「あんた、あんなところを走って、危ないじゃないか、落ちて怪我でもしたらどうするんだい?」
当たり前のような顔をして彼女は大男に説教をし始めた。

大男は困ったような顔をして頭をかいた。
予想外だったらしい
どうにも答えられず、もじもじしてしまう

一頻り説教を終えると彼女はしょうがないというようにため息をついた
答えやすいように優しい声色で語りかける
「あんた名前は?」
「ル・・・るドるフ」
「なにしていたんだい?」
「い・・いお”の”だめに・・・く、くろ”いがげをざがしでだ」
「黒い影?・・・・今、街を騒がせているアレのことかい?」
「・・・よぐわがんない・・・けど、ぞう」
「あんた、一人で、どうにか出来ると思ってるの?」
「・・・よぐわがんない」
大男は同じ答えを繰り返す
彼女は大きくため息をついた
ジャックも同調してため息をついてしまう
「まったく、あんたは、馬鹿だね。大きな図体して出来ることと出来ないことの区別もつかないのかい」
大男はシュンと小さくなった
彼女は呆れて
「つきあってらんないよ、全く。あんた、よく分からないのにそんな馬鹿な真似してるんじゃないよ!」
そう言い捨てると、その場をさっさと歩き去ってしまった。

後に残ったのはシュンと小さくなった大男と端で見ていたジャックだけであった。
ジャックは少々、大男のことが哀れに思えて声をかけようとした

そのとき

彼女が肩を怒らせて帰ってきた。
「いつまで、そんな情けない顔をして座ってるつもりだい!?」
大男をそう怒鳴りつける
生来持っていた気性なのか、見捨てきれずに戻ってきたらしい、思わずジャックは苦笑した
「一緒に方法を考えてあげるから!ほら」
大男の顔に驚きの表情が浮かび上がる

苦笑しながら、ジャックは考える
今後のこと、昼間の黒い影、聖騎士のイオ。
(なかなかに面白そうだ。金も稼げるかもしれない。)
そう考えた、次の瞬間ジャックは2人を呼び止めていた
「ちょっと待った、お二人さん」
その声に2人はゆっくりと振り向く。
空にはもう、星の光がさんざめいていた

FIN