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「芸人集団ラディカル」


 
 

サーチェスのおはなし、聞きたいの?
うん、それじゃあ聞かせてあげるよ。
あのねぇ、サーチェスのいた旅の一座のはなしなんだけどね。
みんなみんな、いいひとだったのよ。
みんなをしょーかいしてあげる。

「サーチェスぅ、支度すんだぁ?」
とある街。
大きな、綺麗な街。
その宿屋に、旅の芸人集団「ラディカル」が宿泊していた。
「うん、すんだよぉ。」
サーチェスに声をかけたのは、17.8歳の女性だった。
ポニーティルにした金色の髪、褐色の肌。
白を基調とした、いかにも砂漠の民らしい薄着の、女性というよりは少女だ。
彼女の名前はネオ。
「ラディカル」では、「ビーストマスター」として売り出している。
つまりは、獣使いだ。
「もう、みんな下にいるっていってたよ。あたし達も早くいこ。」
「はーい!」
二人は荷物を持ち、下に降りて行った。

「ごめんねぇ、待ったぁ?」
ネオが待っていた皆にそう言うと、ひとりの男が近付いてきた。
「ぜーんぜん。ネオちゃんのためならいくらでも待っちゃう♪」
男はそう言いながらネオの肩を抱こうとする。
「やめなさいカイル。サーチェスがいるんだから。」
「カイルおにぃちゃん、ネオおねぇちゃんのこと好きなんだもんねぇー。サーチェスしってるよぉ?」
サーチェスがネオのうしろで純粋無垢な瞳を投げかけている。
カイルは、この一座の一員である。
少し外はねでくせ毛気味の黒髪にタレ目気味の目。歳は二十代前半といったところか。
背は高そうだ。180cm以上はあるだろうが、本人はわからないという。
はっきり言えば、軟派な色男である。
「ラディカル」では「マジシャン」として活躍している。
もちろん、美女を消すトリックがいちばんトクイ。
「つれないねぇ、ネオちゃん。」
ざんねんそうに笑いながら、カイルがタバコをくわえた。
カイルはヘビースモーカーでもあるのだ。
「ねー、サーチェスぅ。ネオおねぇちゃん、少しはカイルくんのコトかまってくれてもいいよねぇ。」
カイルがしゃがんでサーチェスの頭を撫でた。
「無理っスよカイルさん。ネオさんには意中のヒトがいるんスから。」
旅の一座の男が口を出した。
「隙間はなさそうだな。」
また、違う男が割り込んできた。
「カイル、いい加減諦めたらどうです?」
またまた違う男がツッコむ。
「うるせぇよ。俺はすべての女性に愛を注いでるワケ。わかるゥ?」
カイルはニカッと笑ったが、三人は解らないようで、顔をしかめるもの、ため息をつくもの、興味無しな顔をするもの。
「みなさん、仲がよろしくていいですわぁ♪」
ふんわりとした雰囲気とともにあらわれた女性。
薄桃色の髪、同色の瞳。
長い髪とその笑顔があたえるのは安心感である。
彼女は、昨日入ってきた新人さん。
歌が得意なので、彼女は「ディーバ」として売り出す予定だ。
「よ!ティアちゃん。あいかわらずカワイイねぇ♪」
カイルがすかさず声をかける。
「昨日会ったばっかりじゃない。」
ネオはそういいながらも、カイルに感心していた。昨日会ったのに、もう打ち解けている。
「ティアおねぇちゃん、おはよぉーっ」
いや、打ち解けの天才はサーチェスか、とネオは笑う。
「そーいやそこの三人、まだ自己紹介してないだろ?ティアちゃんに。」
カイルが、さっき口を出してきた三人に、自己紹介をと促す。
それにいち早くのったのは、最初に口を出した男だった。
茶髪に黒い瞳の男だ。
歳はネオと同じくらいだろう。
耳のピアスと、頭にまいたバンダナがトレードマーク。
「はじめましてっティアさん。俺はナギ。「ラディカル」では、「アクロバッター」をやってます。よろしくッス!」
そして、好印象なさわやかな笑顔。
彼は、スポーツマンだったんだろうか?
「じゃあ、私も自己紹介しますかねぇ。」
三番目に口だしした男だ。
黒髪に、金色の瞳。黒いシルクハットと、黒いマント。
イメージ的にはまるで黒猫のようだった。
整った顔にはいつも笑みが浮かべられている。
でも、偽りの笑顔っぽくてなんだか怖い。
「私はジョーカー。この「ラディカル」の中ではこう名乗っています。芸名みたいなものですよ。「マリオネッダー」という、人形遣いをやっています。よろしく。」
歳はカイルと同じくらいだ。
ジョーカーは笑いながら木の人形をとりだし、器用に一礼させた。
いったい糸はどこについているのだろう。
「さて、次は俺の番か。」
いままでイスに腰掛けていた男が立ち上がった。
さっき2番目に口をだした男だ。
歳はカイルやジョーカーと同じくらい。
褐色の肌に、ほとんど白に近い銀髪である。
クールっぽい表情を浮かべている。どうやらこれがふつうの顔らしい。
服装には、あまり気をつかっていないようだった。動きやすさ重視である。
「はじめまして。俺はレイド。「ラディカル」じゃあ「サウンドキング」。平たく言えば吟遊詩人。楽器専門だ。たぶん俺はあんたと組むことになる。よろしく。」
見た目は少し近寄りがたいが、いい人のようだ。
ティアは笑顔で三人と握手をかわした。

「あれぇ?だんちょおは?」
サーチェスが言った。
そういえば、団長がいない。
「あれれ。ほんとだねぇ。どこだろう。」
男性のほうも解らないようだ。
「みんなぁっ」
そんな時、突然叫ぶような声。
「あっ団長!」
「よう。元気してたかぁ?」
声の主は、「ラディカル」の団長……ジャンクだった。
額に巻いた赤いバンダナ、黒い髪に青い目、筋肉隆々の体つき。
どこからどう見ても、頼れる「大人」だ。
歳はだいたい二十代後半から三十代前半くらい。
日に焼けた体はまさに健康そのもの。
彼は「クラッシャー」という名で、数々の芸を披露している。
「わりィわりィ。準備に手間かかっちまった。」
そう言うジャンクに、サーチェスが言う。
「だんちょお、きょうはどこで踊るの?」
ジャンクはしゃがんで、サーチェスの頭に手を置いた。
「今日はな、この街の大広場だ。人がいっっっっぱいくるぞ。たのしみにしてろよ。」
サーチェスはわーい、といってぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ほいじゃ、いきますか団長?」
カイルが出発を促す。
「そーしよっか。」
ネオも同意する。
「うっス!がんばるっス!」
ナギはガッツポーズを決めている。
「みなさん、わたくし初仕事ですが、がんばらせていただきますわ。」
ふんわりとした雰囲気で言うティア。
「行くか……」
レイドはあいかわらずクールに言い放つ。
「さて、私もがんばりますかね。」
口元に微笑みをたたえ、ジョーカーがぼそりと言った。
「わーい!わーい!ひといっぱいー。えへへー。」
サーチェスが笑っている。
「それじゃあ、行くぞォ!てめェらぁ!!!」

『おう!!』
 

そしてこの日も、旅の芸人集団「ラディカル」は出陣していく……
 

……んとね、これでしょーかいはおしまいなの。
「ラディカル」ってね、いいひとばっかりだったよ。
だんちょおも、ネオおねぇちゃんも、カイルおにぃちゃんも、レイドおにぃちゃんも。
ジョーカーおにぃちゃんも、ティアおねぇちゃんも、ナギおにぃちゃんも、みんなみんな。

サーチェスは、なんてよばれてたと思う?
あのね、「ステップクィーン」だって。
でも、意味はわかんないの。
なにかなぁ。
じゃあ、また会えたら、つづき話してあげるね。
じゃあね♪
 
 
 
 
 
 

おしまい。
 
 
 
 
 

あとがき。
こんにちは、ゆきうさぎです。
このたびはサーチェスのストーリーを読んでいただき誠にありがとうございました。
サーチェスは旅の一座にいた、というコトで、一座の話です。
とりあえず、喋りかたをひとりづつ変えて個性を出そうかなと。
それでもネオとカイルは似ちゃってますね。
でも一人称の違いとかでわかってもらえれば……
こーゆうにぎやかな集団が大好きなゆきうさぎですので、本編のほうも大好きです。

ひょっとして続きがあるかも?ですが、続きがあったらよろしくお願いします。
読んでいただけたら、また楽しんでいただけたらかなり光栄です。

感想がありましたらr_hoshi@ra3.so-net.ne.jpまでお願いします。

それでは、本編でみなさまと会えることを心待ちにしております。
 
 
 
 
 
 
 

みやたより:
サーチェスさんってほんとに一座のみんなにかわいがられてたんですね。
私はやはり団長ジャンクさんが好みです。筋肉隆々、いいですねー。
しかし何故こんな居心地よさそうな一座と離れて、サーチェスが《精秘薬商会》に顔を出しているのか
気になるところであります。ということで続きをお待ちしております。