Top| 書庫| 書庫の奥| 「芸人集団ラディカル」| 「ラディカル------打ち上げ、その夜。」| 「ラディカル------大人だけが知ってること。」

「ラディカル------see you again」

サーチェス、元気でな。
風邪ひいちゃダメだよ。
あとは俺らにまかせてくれっス。
あなたはいきなさい。私たちの見えないところへ。
少しのあいだでしたけど、楽しかったですわ。
おっきくなったら、恋人みつけろよ。俺みたいなイー男をさ♪
俺の演奏を思い出しても・・・心ん中にしまっとけよ。

バイバイ、サーチェス。

ばいばい、おにぃちゃん、おねぇちゃん、だんちょお。
 
 
 
 

「どーしたかなぁ、サーチェス。」
ネオが言う。

「元気にやってるさ・・・サーチェスだからな・・・」
レイドが言う。

「本当に、俺たちがみえないところへ、いっちまったんだなァ・・・」
ジャンクが言う。

「かわいかったなー・・・俺がバク転するとはじめて見たみたいに喜んだ・・・」
ナギが言う。

「わたくし・・・もっと歌いたかったですわ・・・」
ティアが言う。

「ティアちゃん・・・ごめんな。」
カイルが言う。

「・・・なんで、もどってきてしまったんでしょうね・・・」
ジョーカーが言う。
 

血の色に染まった部屋で、皆はため息をついた。
 
 

「家族」は失いたくないから。
運命共同体だから。
誰かが「征く」と言えば、ついていくしかないから。
ただ、ついてこさせたくない者がいた。
彼女はいつでも元気に笑っていた。
天使みたいに笑っていた。
トレードマークのピンクのポニーティル。
東洋風の衣装。
小さなからだ。
「サーチェス」と呼ばれた、その天使だけは。
その穢れなき羽根を血の色で濁したくないから。
「ラディカル」の団員でいてほしかったから。
「希望」、だったから。
 
 

まだ10にも満たないちいさな少女は、自分たちの素顔をしらずに笑いかける。
まだここが「芸人集団」だったころ。
「クラッシャー」が、「ビーストマスター」が、「サウンドキング」が、「ディーバ」が、「マリオネッダー」が、「アクロバッター」が、「マジシャン」が、そして「ステップクイーン」が。

笑っていたころ。
 
 

「ネーオちゃん♪今日こそデェトしよッ♪」
「やだ。カイルあのね、何回も言ってるでしょ?あたしには好きな人がいるって。」
「そうそう。あきらめたほうがいいっスよ、カイルさん。」
「えー、そー言わないで。きっとその男よりもイイ男だって、俺はさ。」
「そぉかしら。そーでもないよ、あたしはあの人のほうが好きだもーん。」
「こりゃもう、スキマなしっスね。」
「うるせェよ。ねー、せめて今日だけでも!」
「んー・・・いいよ♪」
「マジ!?」
「ただし、ナギもついてきてね♪」
「OKっス!」
「あぁ・・・ふたりだけのデェトがぁ・・・」

「サーチェス、ちょっと待ちなさい。」
「なぁに?ジョーカーおにぃちゃん。」
「髪に糸クズがついてますよ。・・・ほらとれた。」
「わぁい、ありがとぉ!」
「お前らなにやってんだ?」
「あ、だんちょぉだ!」
「サーチェスの髪にイトクズがついてたんでとってあげたんですよ。」
「ほーぉ・・・マンガかなんかだったらぜってェ悪役な性格してるクセに、優しいじゃねェか。」
「団長・・・なんですかそれは。」
「ねぇねぇだんちょぉ、ジョーカーおにぃちゃん。あっちのほうにね、すごぉーくおいしそうなパフェのおみせがあったの。」
「・・・・・・。」
「しゃぁねぇな。ジョーカー、行くぞ。サーチェス、そのお店はどっちだ?」
「うーんとね、あっちのほう。」
「パフェですか。・・・そういえばしばらく食べてませんね。・・・ありがとう、サーチェス。」
「わーいわーい!れっつごー!」

「レイドさん、そこにいらっしゃいますの?」
「あぁ・・・ティアか。どーした?音あわせはすんだぞ。」
「・・・なんだか、不思議で。」
「は?」
「ちょっと前まで、恐い人なのかなぁって思ってたけど、そうでもありませんのね。」
「よく言われる。「お前はもっと笑った方がいい」ってな。」
「でも、そんなレイドさんもかっこいいですわ。わたくしはそう思います。」
「そーか。どーもな♪・・・もしかしてティア、お前」
「はい?」
「俺にほれてる?」
「くす、そんなことはないですわ。わたくし、故郷に恋人をのこしてきましたから。」
「ティアって、恋人いたのか!?・・・意外だ・・・」
「そうですか?」
「ま、そりゃそーと腹減ったな。どっかそのへんに食べにいくか。」
「はい!」
 
 

今はもう、もどってこない時間があった。
それはデートにいきそびれ三人で遊びにいったこと。
それは少女の頼みでガラでもないパフェを食べにいったこと。
それは不思議なともだち関係で昼食を食べにいったこと。
 
 

「次はねぇ〜・・・あのお店がいいなぁ。」
「おッ、ネオさんいいっスねぇ〜」
「お二人さん、どぉでもいいけど俺も忘れんといてなぁ〜」
「もっちろん忘れてないよ、「荷物持ち」のカイルくん♪」
「くっそー・・・あそこで「チョキ」を出さなければ・・・」
「カイルさんお疲れさまっス・・・」
「そー思うんなら変われよナギ!」
「それはカンベン。」
「あー!ちょっとまてコラ!まだ話はおわってないぞ!」
「カイル早く〜。おいてっちゃうよ?」
「ちょっ・・・まってよぉ、ネオちゃ〜ん!」

「わーい!クリームだぁ♪えへへへー。」
「うまいか。よかったなァ、サーチェス。」
「けっこう美味しいかもしれませんね。」
「ねぇ、だんちょぉ、ジョーカーおにぃちゃん。サーチェスね、すごくしあわせだよ。」
「おぅ、俺も幸せだ!」
「よかったですね、サーチェス。」
「うん。だから、このじかんをたいせつにしなきゃ、だめなの。」
「なんかいいこと言うな・・・・」
「私も見習わないといけませんねぇ。」
「ジョーカーおにぃちゃん、いちごちょうだい♪」
「いいですよ、どうぞ。」
「わーい!ありがとー♪」

「辛!からいですぅ〜」
「ティアって辛いモンダメなんだ。ふーん。」
「えぇ?だってぇ、からくないですか?」
「俺は好きだけどな。」
「そーなんですか・・・。・・・レイドさん。」
「んん?」
「レイドさん、好きな人いますか?」
「あぁ・・・いるさ」
「ホントですか?わたくしにおしえてくださいな♪」
「故郷にのこしてきちまったけどな。・・・もう2年もあってねぇな。」
「へぇ・・・じゃあ早くかえってあげないとだめですわ。」
「どーして?」
「そのヒト、寂しがってますわよ。きっと。」
「へへ・・・お互い様、だろ?」
 
 

もどってきた「暗殺」。
もどらない「時間」。
「ラディカル」の人々の心は晴れなかった。
 
 

「もう、終わりにしよっか」
ネオがつぶやく。
「もう、終わろうよ。ここで、みんな、死んじゃえば、ぜんぶ、終わるよ。」
いつものネオじゃなかった。
いつものネオは「絶望」なんてしなかった。
いつものネオは「希望」しか抱かなかった。
「・・・そうっスね。俺らが死ねば、少しは死ななくていい人が増えるかもしれないし。」
ナギはうつむいていた。
「わたくし、・・・・楽しかった、ですわ。」
遺言のようなものをのこすティア。
「もう、・・・だぁれも愛する資格、ないんかな・・・」
カイルは寂しそうに笑う。
「結局告白できずじまいか。・・・それも、運命かな・・・」
いつもの表情で、静かに言うレイド。
「もともと捨てられた命ですからね。ここまで生きてこられて本望ってもんですよ。」
ジョーカーは微笑の表情を変えず、呟く。
「・・・ま、しゃあねぇな、いつかこうなると思ってたんだ。」
ジャンクは決意したように、・・・言った。
 
 
 

その時、なにかが見えた。
・・・羽根・・・?
真っ白い羽根。
こんな血だらけの部屋なのに、羽根には血がしみ込んではいなかった。
「あたしたちが死んだら、サーチェスが悲しむよね?」
ネオがふいに言った。

「死ななくても、・・・道はありますよ。」
ジョーカーがドアをあける。
「この仕事を辞めて、くらす。出来なくはないっスよ、絶対!」
ナギの元気が復帰する。
その場を閉めたのは、「団長」ジャンクだった。
「じゃ、まずこの場は退散だ。・・・続きは宿の部屋で。」

「うっしゃ!」

それから、2年ほど時が流れる。
 
 

「なぁ聞いたか?今日なんか大道芸やるらしいぞ、ここで。」
「知ってる。なんか凄いんでしょ?」
「そうそう。たしか団員は7人で・・・」
「歌姫が可愛いんだってさ。」
「マジシャンさんカッコよかったよ〜?」
「打ち上げはそこの酒場だって。」
「みにくるよね?」
「もっちろん。」
 

「みなさま、お待たせいたしました。あっちへふらふらこっちへふらふら、西へ東へ旅をする、しがない芸人集団でございます。」
「古今東西さまざまな芸のつまったこの集団、みなさまの貴重なお時間を代金としていただきます。」
「今宵あなたを夢の中へと誘う集団の名前をお教え致しましょう。」
「芸人集団「ラディカル」、存分にお楽しみ下さい。」
 
 
 

あの時白い羽根を見て思い出したのは。

ラディカルの「希望」・・・。
 
 
 

サーチェスのしってるみんなはこれでおしまい。
またあえればいいなぁ♪

それじゃあ、バイバーイ♪
 
 
 
 

あとがき。
こんにちは、ゆきうさぎです。
本章が終わったのにまだ完結してなかったのに気付いていそいで書き上げたので短いです。
とりあえず「ジョーカーさん」はいい人だよ〜、と。

よんで下さった方、有り難うございました。
よろしければ、感想、「ダメダメやん」などのお手紙はr_hoshi@ra3.so-net.ne.jpまでお願いします。
 

それでは、皆様に幸あらん事を。
 
 

みやたより:

再会、してほしいですね。時が流れてもしも会えたら、サーチェスさんは家族になんていうのかな。そしてもしも時間を戻せたら、何を願うのでしょうね。どうかサーチェスさんに、辛い別れが訪れませんように。それともすすんでそっちの道をいくのがサーチェスさんなのかな……。そうそう、カイルくんがおいしいと思ってしまいました。