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「ラディカル------打ち上げ、その夜。」


 
 

こんにちは。またあったねぇ。
こんどはね、あのあと、よるのおはなしをしてあげる。
もう踊りおわったときの話なのよ。
サーチェスね、そのときすっごくこわかったの。
だってね、やどやさんにね、どろぼーさんがはいったのよ。
 

「ねぇねぇ、さっきの大道芸見た?」
数名で、女性が話している。
ここは、「ラディカル」がさっき大道芸を披露していた大広場である。
「見た見た。なんかすごかったよね。」
「うん、あのマジックやってたひと、カッコよかったなぁ。私もマジックやってみようかなぁ。」
「歌姫の歌も上手だったし、なにより吟遊詩人さんがタイプだなぁ、あたし。」
「でもさ、アクロバットすごかったよね。」
「うんうん。私、感激しちゃったよ。」
「ね、ね、あの人はぁ?石を素手でわってたひと!」
「あー、あの人!すごかったねぇ。カッコよかったし。」
そして、またあちらでは別の集団が同じことを話している。
「あの踊り子、ちっこかったよなぁ。でも踊りうまいの。すっげェなぁ。」
「俺は獣使いの子が好みだなぁ。」
「お前の好みなんかきいてねぇよ。でも、獣使いの芸はすごかった。」
「あとあの人形遣い!あれ、糸どこについてんだ?」
「さすがってカンジだよな。」

「えーと……団名はたしかぁ……」
旅の芸人集団、「ラディカル」。
見るものを飽きさせない、古今東西さまざまな芸がつまっている。
ふらりと街にあらわれ、街にいるものを楽しませ、去って行く。
彼らがどこ出身なのかはまったくわからない。
どっちかというとスペシャリストをあつめた感じ、でもあった。
しかし、それより凄いのが一人一人の個性。
キャラがかぶる人は誰一人としていなかったのだ。
なぜだかは、わからない。
さて、そんな彼らが芸を披露した、その夜のこと……
「それじゃあ、俺が乾杯の音頭をとらせていただくッス!せェの!」
『カンパーイ!』
今日も「ラディカル」の面々は大盛り上がりだった。
もともと賑やかな人たちだが、今日は打ち上げと称した飲み会を、宿屋1Fの酒場でやっている。
もちろん、一般客もまぜて、だ。
「みんなぁ、ありがとぉね♪」
カワイイ、とあつまってきた女性客数人に頭を撫でられ、上機嫌なのはサーチェス。
「えー、そんなぁ、ありがとねっ」
ほめられて上機嫌なのはネオも同じだった。
「見にきてくれた麗しのお嬢様がたに、プレゼント♪」
カイルの両脇には女性が座っており、マジックで差し出された花をうれしそうに持っている。
「そうっスよ。だから足を鍛えないと……」
ナギはというと、スポーツ好きな青少年たちと熱く語り合っていた。
「ええ、初仕事でしたのよ。」
男性に圧倒的人気のティアは、相変わらずの微笑みでやさしく語りかけていた。
「プレゼント?俺に?……ありがとな。」
女性からプレゼントを貰いちょっぴり照れているのはレイド。
「もう一度ですか?そうですね、わかるまで何度でも。」
ジョーカーの周りにはなんとかして糸を見ようという男女が集まっている。
「まぁ、団長っつってもただ一番年上なだけなんだけどよぉ。」
まわりにファンがあつまる中、ジャンクは豪快に笑った。
みんな、楽しそうである。
この街でも一人ひとりにそれなりにファンがついていた。
このまま終わればよかったのだ。
このまま終われば。

酒場内に轟音が響いた。
「きゃあっ!」
女性の悲鳴が、まわりをしずめる合図になる。
「てめぇら、有り金おいてきな。」
黒ずくめの男数十人が、突如として酒場に入り込んできたのだ。
おそらくは、強盗だ。
この世界では盗賊とよばれる輩。
「打ち上げ代は高ェぞ、おい。ちゃんと払えんのかぁてめェら?」
ジャンクが一人の男に歩み寄る。
「あぁ?うるせェな。痛い目見たいのか?」
男はジャンクにつっかかる。とたんに。
「じゃあここには入れられねェな!」
男はジャンクのパンチをまともに喰らい、窓ガラスを割って店の外まで吹っ飛んだ。
がしゃん!と大きな音が夜の街に響く。
ジャンクが叫ぶ。
「おい!このお客さんたちを追い返してやりな!」

「おう!」
いち早く行動に出たのはナギだった。
机にとびのると近くに居た男にとび蹴りを一発。
素早い動きが彼の売り。

「さてお嬢様方、少しのあいだ辛抱だ。」
カイルは女性たちにやさしく語りかけ、それから黒ずくめの男たちに体を向けた。
「おい、そこの盗賊野郎ども。レディーを驚かすとはどーゆう頭してんだ?」
言うなり、指をパチンとならす。
するとどういうワケか、一人の男がゆらいで、倒れた。

「よくもあたしたちの打ち上げを邪魔したわね。よーしゃしないよ。」
ネオはというと、どこから来たのか犬を数匹連れていた。
その犬たちが皆、黒ずくめの男たちに向かって牙をむいて唸っている。
「みんな、お願い!」
ネオの言葉を合図に、犬たちは男に飛びかかった。

「やれやれ……今いい気分だったというのに……」
シルクハットを深くかぶり直しながらジョーカーが独り言を吐く。
その手には、血だらけの木の人形。その両腕は刃物になっている。
彼の周りには血だらけの男が十数人倒れていた。
「まぁ、でもいいでしょう。殺しはしませんよ。」
そして彼はくすりと笑った。

「わたくしの初舞台でしたのに……初打ち上げでしたのよ!」
ティアは一番怒っているようだ。
得意の雷の魔法が炸裂している。
一見弱そうな彼女だが、魔法の才能に恵まれているのだ。
ぎゃあ!と響く悲鳴、また一人男が黒焦げになっていた……

「もう終わりかよ?」
レイドは、すっかりノビた男たちを見ながら言った。
彼は武術の使い手でもある。
しかし、手をいためると楽器が弾けないので足技専門。
それでも、手をつかっても勝てないくらいの経験をつんでいた。

「サーチェスもまけないよぉ♪」
回復魔法と踊り以外はなにも知らないサーチェスだが、「子供」というところと素早さが武器。
その小ささで敵の合間をくぐりぬけ、共倒れさせている。
まぁ、多少は運が手伝っているのだと思うが。

もうすっかりダウンしている男たち。最後の一人を、「ラディカル」は取り囲んだ。
カイルが笑顔で言う。
「お客さま、料金は現金払いでお願いします。」
「は……はいぃ……」
たじたじになった男は、どさりと何か袋を置くとノビた仲間を起こして、そそくさと去って行った。
「まァた大道芸やっちまった。今日はつかれんなぁ。」
「ラディカル」の団長は、豪快に笑った。

「うわぁ、きらきらだぁ♪」
男がおいて行った袋を開けて、サーチェスが歓声を上げた。
「うっわ……すごいッスよ!」
ナギも驚いているようだ。
それもそのハズ。
そこには一年やそこら遊んで暮らせるかという金が入っていた。
「でもよぉ、どーせ盗品だろ?なんか……悪ィ気しねェか?」
ジャンクがぽつりと言った。
「たしかに、そうですわ。」
ティアも同意している。
「……そうだ、いいコトおもいつーいた!」
ネオがにっこり笑った。
「なになに、ネオちゃん。」
カイルも興味津々である。
「……まさかネオ、あれを?」
うんそう、とジョーカーの問いにネオは答える。
「あれ?」
レイドは、なんのコトだかわからないようだった。
「あのねー……」
そうして、作戦会議が始まった。

次の日、宿屋の人間は少なからず驚いた。
昨日までたしかにいた「ラディカル」の人々が、こつ然と消えていたのだ。
そのかわりに、部屋中に金の粒が、ばらまかれていた…………
机の上のメモを見て、宿の人間は少し笑った。
「宿の修理代。 芸人集団ラディカル参上!」
メモには、そう書かれていた。
あきらかに、修理代より多いのに……

今頃彼等はどこにいるのだろう。
宿の人間はそんなことを考えながら、開きっぱなしだった窓を閉めた。

果てしない青空の下、彼等はどこまでも、どこまでも…………
 

はい、これでおわりなのよ。
あのねぇ、あのときのみんなはね、すごくかっこよかったの。
サーチェスのしらないみんなだったの。
でもね、こわくなかったよ。
だって、サーチェスのともだちで、なかまで、かぞくだもん。
だから、こわくないよ。
また会えたら、こんどは違う話をしてあげる。
じゃあね♪
 
 
 
 

あとがき。
はじめまして、またはこんにちは、ゆきうさぎです。
さて、今回は本格的に彼等を使ってみました。
いかがでしたか?
楽しんでいただければ、光栄です。
なんでバトルものをやったのか、自分でもわかりません。
ただ、やりたかったからかもしれません……
ネオの「あれ」はある小説を読んで思い付いたものらしいです。
盗んだ金品を貧しい家にばらまいたという……あれです(笑)。

感想などございましたら、r_hoshi@ra3.so-net.ne.jpまでお願いします。
ひょっとして次回作あるかもしれません。
その時はよろしくおねがいします。
締めのサーチェスの「かぞくだもん」を憶えておくと、面白いかもです。

それでは、本編でみなさまとあえることを心待ちにしております。
 
 

みやたより:
いいなあ、窓の向こう側までふっとんでしまうようなパンチ……
はッ、いやいや。ティアさんも、すっかり「ラディカル」になじんでいるのですねぇ。
知らない顔を持つ仲間、いろいろ想像してしまいました。
たしかにサーチェス(の戦い方)は、あたりを混乱させて同士討ち、って感じだなー。
ありがとうございましたー。