第4章 4.精霊の理
■Scene:精霊の理、1
幻覚の嵐が過ぎ去った《炎湧く泉》。
仲間たちの半数以上が姿を消し、こちら側に残っているのはアダマスをはじめ、カインに、フート、クオンテ、レディルとリュシアン。そしてティカ、彼女に寄り添うようにからくり犬のスィークリール。
「傭兵君。あんたは先頭きって乗り込んでいくのかと思っていたがね」
呆けたようにへたりこんでいたティカは、アダマスにそう冷やかされてむっと膨れた。
「お、おれだってそのつもりだったけどっ」
年少組は残らず《魔獣》に会いに行ってしまい、残されたのはティカひとり。そのうえ極悪人アダマスと一緒に残るとあっては、非常にティカにとって居心地の悪い状況であった。
「し、仕方ないだろ!」
匂い袋は使ったし、答え方もばっちり考えてあった。誰よりも大きな声で名乗りをあげるつもりだった。
でも問いかけられた瞬間に分からなくなってしまったのだ。
おれも記憶を奪われちゃったら――シュシュ兄だって奪われてしまった――今までのことが全部なくなってしまったら――シュシュ兄ができなかったことをおれができるのか――そしたらおれは……。
「彼らを信じよう。そうするしかできないから」
アダマスがその場を離れる。数歩歩みかけ、座り込んで空を見上げたままのティカに言う。
「どいたほうが良いのではないかな? あんたの大事な兄上どもが降ってくる前に」
「わ、わかってるよ!」
いちいち癪にさわる物言いだ。
立ち上がり砂を払う。ティカはミルドレッドが彼に悪態をつくのももっともだと思った。
「怖がったりしねーよ、ちぇっ。なんであの時、あんなに怖いと思ったんだろ」
独り言はスィークリールだけが聞いている。
「あー。今ごろクレドもシュシュ兄もピュアも……あーあ……」
まだティカは自己嫌悪という感情の名を知らない。スィークリールのふさふさの毛並みを撫でて、とぼとぼと砂に足跡をつけた。
スィークリールは無言でティカのお供をする。
■Scene:精霊の理、2
「……つっ」
軽くフートは呻いた。
「どした?」
異変にクオンテが振り向く。
「頭痛が……妙っすね。僕は頭痛持ちだったんでしょうかね」
「悪いが知らねー。傍目には健康そうに見えたがなー」
「フートさん、健康自慢してたよ、そういえば。《精秘薬商会》で」
レディルが請合う。
「キノコ岩は壊れていねーんだな」
クオンテは泉の周囲をぐるりとめぐり、11本の岩を確かめて言った。
その手には、イーダの糸玉をしっかりと持っている。託されたものは受け止めるのがクオンテらしいところであった。
「精霊たちは……この杭を、この岩を、快く思っていないっす……」
フートの視界には、精霊たちが本来の働きを妨げられていることに戸惑う様子が映っている。
記憶を失ってからはより一層、精霊たちの声に耳を傾けることが多いフート。人間同士がどのような決め事をしたにせよ、精霊のあるがままを捻じ曲げてまですべきことではないという想いがある。
人の苦しみと精霊の苦しみ。
優劣で語ることはできないと頭では分かっている。だがフートの感情は、精霊を選んだ。
カタカタとランタンが音を立てる。
「それ、あんたの?」
耳聡くレディルが聞きつけた。
「そうみたいっすよ。ヨシュアさんが教えてくれたところによると、ね」
ランタンを取り出し、ふっと息を吹きかけるフート。赤々と輝く小さな蜥蜴のかたちをしたものが、ランタンの中、ろうそくを立てる位置に陣取っているのが見えた。
フートはランタンを掲げる。
「火蜥蜴サラマンダー。長い付き合いの友、っすよ」
長い前髪に隠れて見えないが、フートはにこっと微笑んでいる。
精霊が宿るという触れ込みで手に取ったのが、ランタンとの、ひいては友なるサラマンダーとの出会いであったことを思い出したのだ。火を灯しても勝手に消えてしまう薄汚れたランタンを、まんまとフートは売りつけられたのだが、汚れを綺麗に落として清め、たまに食べ物なども添えているうち、件のサラマンダーはご機嫌になって姿を現したのだった。
「ははあ、やっぱりお宝でしたか。変わったランタンだなってひそかに……」
「目をつけてたのかよ」
レディルはクオンテに突っ込まれて、苦笑を浮かべる。
「職業病みたいなもんなんで」
「おめーの場合は、趣味を職業にしたんじゃねえか」
クオンテはぐりぐりとレディルの金髪に拳をあてた。骨董品いじりが高じてラハの好事家に拾われ、秘書を兼ねている。となれば、
「恵まれてるなあ、このやろ」
と言わずにはいられない。アダマスの秘書らしきカッサンドラは、さんざん老人やら子どもやらの面倒を見させられた挙句に行方不明の憂き目にあっていることを思えば、天と地ほどの開きもある。
「で、サラマンダーにご登場願えるんですか?」
レディルの問いにフートはうなずいた。
「けど、火の精霊は封じられているとか? その証拠にミスティルテインも……」
「そうなんっすけどね。このサラマンダーとの長い付き合いに賭けて、試みてみる価値はあるっすよ」
サラマンダーもそれを望んでいることを、フートは知っている。
たとえ契約の効果が及び、長い付き合いの火蜥蜴が封じられてしまうか姿を失ってしまうことになったとしても。フートが望めば、サラマンダーは応えてくれる。
なぜなら、精霊たちが異質な壁によって苦しんでいるから。
そして引き裂かれ封じられているのは炎湧く主ミスティルテイン、気高く純粋な火山の王なのだから。
フートが望むのは……精霊たちが望まぬことを、しないこと。
「義理堅い子だったんすねえ」
「ん、誰が?」
「あわわ。こっちの話っす」
フートはぎこちない仕草でランタンの窓を開けた。
こういった動作は身体が覚えているものと思っていたが、意外に力のかけ具合や、留め金の外し方には慣れが必要なのだ。
サラマンダーに通じる言葉まで忘れてしまっていたらどうしようと一瞬不安になったが、これは杞憂であった。生まれた時に最初に見たものが精霊であるフート、ランタンの使い方はともかく精霊語だけはそれこそ身体が覚えていたのであった。
「――熱き心を灯す友よ」
友、と言ったときサラマンダーの背がちかちかと光を増したことを、フートは嬉しく思った。
そうっすよね、呼びかけは友。それでよかったんすよねえ。
「こいつ……サラマンダーは何をするつもりだ?」
クオンテの問いに、しかしフートは答えずに、サラマンダーへささやき続ける。
「――僕の前に集い力を貸して。世界を隔てるあの壁を……取り除くんだ!」
フートの手からランタンが弾け飛んだ。
■Scene:精霊の理、3
フートのランタンから火の精霊サラマンダーが出現する少し前に遡る。
カインとリュシアンはアダマスをつかまえる好機とばかりに立ちはだかった。
「盾父殿」
カインの呼びかけに、アダマスはへの字口を見せた。
「そう嫌な顔をなさらないでいただきたいものですね」
「きみたちの話は小難しいのでな」
「私もぜひ加えてください」
リュシアンは携えていた「吟醸・極星」を掲げて見せた。
「お? すっかり飲みきったと思っていたが……いや冗談だよ。何かね?」
三人は立ち並ぶ天幕がつくる日陰に丸く腰を落ち着けた。
座り方にも性格が出る。
カインは折り目正しく綺麗な姿勢で。肌を露出している部分はまったくないのはいつもどおり。
アダマスはどかりと膝を割り、袖をまくって。
リュシアンは、神官ふたりが腰を下ろしたのを確かめた後、皮のブーツの縫い目に入り込んだ砂をブラシで払ってから座るのだった。
ここからはアリキアの木のあたりが一望できる。じりじりと太陽に照り付けられる白砂の泉でなおも話し込んでいるクオンテとレディル、フートの三人も見える。聞こえる音は駱駝たちがもぐもぐと干草を食む音。
「元気だねえ、あの連中」
「……もうよろしいでしょう、盾父殿。ミルドレッド女史も無事あちらに行かれたことですし、盾父殿も肩の荷を降ろされては」
自ら極星で喉をうるおしながらカインが言った。
「《砂百合の谷》は良かったなあ、美しいところだった」
「ええ……子どもたちにも見てほしい場所でしたね」
数日前の出来事だが、随分昔のようにリュシアンは言った。
「クレドさんもグロリアさんも、ほんの少しの間に、調査隊でたくさんの教えを吸収したようですよ。今ごろは何を見、何を思っているでしょうね」
そしてヨシュアも。
リュシアンにとって、クレドやグロリアと一緒になぜかヨシュアの顔がちらつく。彼がアダマスに詰め寄った話を耳にして以来、ヨシュアの想いが気になっているのだ。出来ればこの場に彼がいれば……。
アダマスの真意を慮るあまりにヨシュアが先走りすぎないことをひそかに建築家は祈った。
《神の教卓》。なんとふさわしい。
「肩の荷なんて私には露ほどもないよ。あんた方が背負っているものに比べれば」
「またそうおっしゃる」
「だってそうだろう、私はもう年老いている。《大陸》の行く末はあんた方の……もっと言えば、クレドやグロリアのものだ。クレドもグロリアもまだ気付いとらんだろうが、私の荷のほとんどは、もうあの子らが背負ってくれている」
「盾父殿、もう私たちは騙されませんよ」
カインはリュシアンとそっと目配せする。
「そうです。本当の悪人は、自分のことを良く見せようとする。でも貴方は逆ですね」
こんな大人になりたくないだろう、とヨシュアに言ったことを指し、リュシアンは杯を煽った。
「何だね? きみたちは私を褒めちぎるために残ったとでも言うつもりかね」
「貴方を信じているからですよ、盾父殿」
カインは言った。だがそれは文字通りの意味とは少し異なった。
「聖職者なら神を信じなさい。私のような大人ではなく」
アダマスは自身も《涙の盾》信徒であることを棚に上げた。
「……そうまでして悪役に徹しようとするからには、盾父にも理由がおありなのでしょう」
リュシアンはアダマスの考え方を、人の上に立つ者として立派だと思っていた。
目的を果たすために、ためらわず判断することの重要性をリュシアンも学ばされてきた。判断には責任がつきまとう。痛みや苦しみも然り。躊躇することなく判断を下し、その結果犠牲が出たとしても――初めから犠牲を厭わないのではない――それは最小限の被害なのだ。
「判断を下す。それがどれほど難しいかは存じておりますよ。まだまだ若輩者ですから、そう思っているつもりかもしれませんが」
「ソレス君、なかなか上手いことを言うね。おっしゃるとおりさ……責任なき判断に価値はない」
「リュシアンさん、貴方はひとつお忘れです。盾父殿はその呼び名のとおり盾父、つまり《涙の盾》信徒の中でも高位のお方なのですよ」
「その上、聖騎士団員でパルナッソス教区長も務めておられる」
リュシアンは忘れていないというように言葉を続ける。
「充分すぎるほど、人の上に立つお方ではありませんか。ですから学術調査隊長としても申し分なく重責を果たしていらっしゃる」
「……むず痒い。私を褒め称えるなら、私の見てないところでやってもらえんかね」
「「駄目です」」
ふたりの声がぴったり重なった。
「カインさん。誰が敵とか味方とか、考え方があっているとか違っているとか、そのようなことを真剣に語り合える彼らを羨ましいと思いませんか」
それは、《魔獣》に会いに行った者たちのことだ。
酒が入っていることもあり、リュシアンの口調は流暢だった。
「だってカインさん、アダマスさん。彼らは自分のこととして、真剣なのですよ」
例えばダージェ。
剣術修行の身でたまたまこの調査隊に加わった彼の、元々期待されていた役割というのは、剣の腕をあげることであったはずだ。
朝練習に励むのはともかく、今やダージェの目的はミルドレッドに手を貸すことに変わっている。そしてミルドレッドの立場で考えたり、自分の立場で考えたりしている。どちらもダージェは真剣で、時々混乱しているにせよ、彼はミルドレッドのために行動するだろう。
そのことは、良いとか悪いとか、合っているとか違っているとか、そういう議論の対象にはならない、とリュシアンは言う。
「それで?」
「個人の目的の前には善悪の判断はできないのです。そんな権利は私たちにはない。ただ、その者の上に立つ者だけは……」
リュシアンはアダマスの目を見つめた。彼はにやりと笑っていた。彼が気分を害していないことにリュシアンは安堵した。
「上に立つ者だけは個人の行動がどうあるべきか、示すことはできる。あくまでも大きな目的の、枠組みの中で。盾父が一貫してその姿勢をとっていらっしゃることに感服します」
だからヨシュアくん、とリュシアンは思った。
もし貴方が、いざという時犠牲のない道を選びたいとして、それも盾父は容認してくださると私は思う。違うでしょうか。
アダマスは杯をあおって唇を湿した。目尻が赤くなりはじめて、こちらも酔いが回っているようだ。
「ソレス君、きみが設計したある建物を建築するのに人足を集めたとしよう。毎日毎日煉瓦を運ばせるわけだ。人足のひとりに何をしているのか尋ねると、そいつは答える――見ればわかるだろう、煉瓦を運んでいるんだよ、と。別の人足はこう答える――新しい建物を作っている、と。もうひとりの答えはこうだ――私は、人々が安らげる神殿を作る手伝いをしているのです」
だが人足の行為としては等価だとアダマスは言った。
「今……盾父殿は私たちに、煉瓦を運べとまではおっしゃいました。しかしそれが何のためか……神殿なのか要塞なのかを明かされておりませんね」
カインは言った。
「……真実の残りの三を」
「推測の推測にさらに責任と判断をおしつけるのかね、カイン君」
「ええ」
涼しい顔でカインは答えた。
「神殿をつくっているのだとなれば、やる気も出てまいりますから」
「残念ながら」
アダマスは推測だぞと念を押してから言った。
「阿呆な同胞が頼まれもしないのに作ってしまった神殿を解体するのが私の役目らしいが、それでも手伝ってくれるかね? カイン君」
「私がお役に立てるのでしたらば」
ふいに。
リュシアンはかすかに自分の肌がちりちりと粟立つのを感じた。
振り返ると、精霊使いが捧げ持ったランタンが見える。サラマンダー、という言葉が耳に入った。
彼は水の精霊の加護を持つ一族である。フートも同じように、火の精霊の加護を受けた一族の者なのだろうかと興味深く思った。そしてパルナッソスでの会話を思い出す。精霊使いの青年はパルナッソス孤児院の出であった。ソレス家と同様精霊の友となる出来事があった一族にせよ、その歴史を紐解くのは困難そうである。
「ほほう、火蜥蜴の実体化」
水の気配に敏感なソレスの血が、火そのもののサラマンダーに対し反応しているものらしい。故郷をはるか離れた砂漠にあって、ソレスの血は当然のように、あるいは否応もなく故郷を思い出させることにリュシアンは今さら気がついた。
「――僕の前に集い力を貸して。世界を隔てるあの壁を……取り除くんだ!」
フートの手からランタンが弾け飛んだ。
橙から紅、炎色を纏う精霊サラマンダーが勢い良く出現した。
大きな猫ほどの大きさでふわりと宙に浮き、四肢をつっぱって首をもたげる。周囲の気温がぐんぐん上昇する。
■Scene:精霊の理、4
サラマンダーの出現に驚いたティカは、慌てて身を伏せ、スィークリールにしがみついた。
「な、なんだっ! 《魔獣》……連れて戻ってきたのかっ!?」
火蜥蜴はフートの願いに従って、キノコ岩の円陣の内側を駆け巡った。溶けた橙色の帯のように。
「気をつけるっすよ、ティカさん」
フートが声を掛けるが、ティカは「早く言えよっ!」とスィークリールをつかんだまま涙目だった。
おかしい。
何だか最近よく泣いている気がする。
そう考え出したらまた腹が立ってきたティカである。
「見て、岩が」
レディルがキノコ岩の異変を見て取り、叫ぶ。
駆け巡るサラマンダーの炎を浴びた11本のキノコ岩が、次第に赤々と輝き始めた。燃えているのではなく、岩の内部から発光している。
「ティカの嬢ちゃーん、あぶねーぞ。離れろって!」
「な、な、な……」
腰が抜けているティカをスィークリールがずるずる引っ張り、円陣の外に立つフートたちの元までつれてくる。
「キノコ岩が内側から……燃えている?」
「ミスティルテインの切り刻まれた欠片」
フートは珍しく語気を荒げていった。
怒り。
滅多に覚えのない感情。しかし精霊を痛めつける者の存在を、フートは許すことが出来ない。
「気高く純粋なる王を無残にも切り刻み、あの中に閉じ込めた……」
キノコ岩の内なる輝きに呼応して、サラマンダーは今や大きな猫からその倍ほどの炎球に成長していた。
時を同じくして、アリキアの枯れ木がきらきらと無数の結晶を纏い始めた。クレドが幻覚の中の巨木を傷つけたことにより、支えられていた契約の杭が壊れ始めているのだ。
「ミルドレッドさんだ!」
レディルが叫んでキノコ岩に近づこうとする。
「あぶねーぞレディルっ」
「でも岩の中にミルドレッドさんが」
「あっちはダル! ヨシュア……!」
「何があったんだ」
キノコ岩の中に見知った仲間を認めて、こちら側の者たちも絶句する。まるで岩の棺に納められ内側から炎に焼かれているかのような姿。
「サラマンダー、もう……」
フートがランタンに戻れと命じる。キノコ岩の中にシュシュがいる。
ミストに教えてあげたいことがたくさんある、と嬉しそうに語ってくれた、最初に出会った、フートだった男の知り合い。
しかしミスティルテインの強大な力が活性化をはじめ、火蜥蜴は楽しげにその身を育てていくばかりだ。
「熱き心を灯す友よ、僕は」
あそこにいるのも僕の友だちなんだ。
サラマンダーはぐるりと円陣をめぐり、そしてアリキアの枯れ木を駆け上り……。
そして魔力の覆いの内側を一瞬花火のように飾って、消えた。
「……サラマンダー」
いなくなった友を精霊使いはそっと呼んだ。返事はない。
ただ。
輝く方形の雲が上空から降りてきた。柔らかなオーロラのような光に枯れたオアシスが包まれる。
そして風が吹いた。
「一体何が……」
リュシアン、アダマス、カインらが眼にしたのは。
「エディさん。リュートさん。貴方たちは幻覚の向こうに行ったのでは?」
カインが驚いて目を丸くした。
「そのつもりでしたが、帰ってきたと思ったら……」
リュートは大きく腕を広げる。
「逆に、幻覚の中に閉じ込められたってことみたいですねえ。こっちも靄だらけ」
「水の香りがする」
リュシアンがそっと呟いた。
「水と風。そして結晶だ」
エディアールが手の平の上で小さな結晶を転がして見せた。
「何かを固形に変えたものだろうな」
アダマスが目を細める。
「魔力の結晶というところか……だとしたら随分溜め込んだもんだねえ」
カインは不安そうにあたりを眺めた。砂漠の景色はもう見えない。
「行こうか」
「どこへです、盾父」
決まっているだろう、とアダマスは振り返って言った。
「《魔獣》を操る奴を探し出して、柱の中で無茶してる連中を助けるのさ」
■Scene:精霊の理、5
――今ひとたび恩寵を与えたまえ。
人々を導く《朝告げる鳥》、
其は闇を払い、希望を告げ、道を照らすべきものなれば――
第5章へ続く