第3章 4.声と幻
■Scene:声と幻(1)
その日の夜の食事の時間。
ラムリュアの手の込んだ夕食――干し肉を酒に漬け込んで焼いたものに、豆類のサラダと、短い麺をクリーム仕立てで煮込んだもの、おやつのお団子――に舌鼓を打ちながら、調査隊一同は情報を交換しあう。
《炎湧く泉》では火山の活発な活動が10年前までは見られたこと。
枯れ木は、元々血の流れたことのない場所で大きく生長する性質を持つアリキアの木であること。ただし、実生からとして樹齢10年を数えたところで枯れてしまっていること。どういうわけかこの木は影をつくらないこと。
精霊たちは、契約の杭の存在によって、結界の内部に侵入することができないこと。
契約の杭は何者かが、炎湧く主ミスティルテインを封じたものであること。
キノコ岩のうち、崩れたものからは微弱な魔力しか感じられないこと。また反対に、形をしっかりと留めているキノコ岩からは、強大な魔力を秘めている気配こそすれども、ほとんどそれが感じ取れないということ。また一方では、アリキアの枯れ木には、本来宿っているべき精霊ドリアードが不在または休眠状態であり、にもかかわらず魔力源として活性化しているということ。
キノコ岩に触れた黒曜石のナイフが発熱したこと。
ミルドレッドは何か苦痛にまつわる過去を持っていること。それが彼女の目覚めを妨げている可能性があること。
彼女の持っていた剣は模造品であったこと。そして小箱を開けるのに手間取っていること。
……など等。
「文字通り、おなかいっぱいと言うに相応しい感じじゃなあ」
しいしいと歯をせせりながらホールデンが総括して言った。
「いったいワシらは何を調査しに来たのか? ちっとも真相が迫ってこんじゃないか」
「知恵と勇気と愛を試しに来たのだ、とでも言えば満足かね? 老勇士殿」
「まあまあ……アダマスさんも、デンおじいちゃんも」
この頃では、何かにつけ仲裁役を務めるのがイーダの役である。
クレドとグロリアの仲だけを心配していれば大丈夫かと思いきや、いい年した大人たちだって、この有様である。クレドに大人とは何かを語るなどおこがましいのかもしれない。
「前進しているじゃないか」
ヴィーヴルはアダマスとっておきの「大吟醸・極星」をいつの間にかぐびりとやっている。彼は学術肌に見えて、酒を飲むのが好きなのだった。
「あ。錬金術師君いつの間に……」
「これで、次の手は明確になったさ」
ヴィーヴルは酒の杯を咥えたまま顎をしゃくった。
夜の闇に浮かび上がるほの白い枯れ木。
「学者のお嬢さんが言うところの“扉”が、あのアリキアの木だというのだね?」
「誰が何のためにやったのかわからないけどさ。随分手の込んだことをする奴だね〜」
ヴィーヴルの前に自分の器を差し出すリュート。注いでくれと示す。
「たいがいの陰謀は、手が込んどるもんじゃ」
ホールデンが決め付けた。
「わかりやすい陰謀なんぞないんじゃ。どうでもよいことを複雑にしよるのが、陰謀っちゅうもんだ」
「陰謀ね」
酒で唇を湿すとリュートはにやりとカインを見た。
「楽しそうだな。統一王朝が出来る前の陰謀ってわけでしょ? 結構、びっくりするような発見があったりして」
カインはそしらぬ風だ。統一王朝に関する議論に加わるつもりはないらしい。
「まあ期待する気もわからんでもねーけど」
クオンテがリュートを嗜めるように言った。
「竜じゃねーんだろ? その何だ、ウンディーネが言ってた奴は」
「あ……炎湧く主っすか」
「連れ帰ることができるような奴なのかね、そいつは」
「さあ……」
フートは首を捻る。
「寝てるの確かめて帰るだけってことも有りうるんだろ、アダマスのおっさん」
「カッサンドラ君が見つかって、それで済めば、だがな。そうなってくれるのが一番楽なんだが」
アダマスはそう言ったもののミルドレッドの意見はきっと異なるのだった。
■Scene:声と幻(2)
休む前にひっそりとヨシュアはダージェを訪れた。アダマスを伴い、ミルドレッドの天幕に声を掛ける。
「はー。もう夜だねー」
ぴょんぴょんと砂の上を飛び跳ねて、ダージェは声を挙げた。
「疲れてるところ悪いけど。地図の話を聞きたいんだ」
「地図? ああ、カッサンドラさんが持っていたほうの」
すぐにダージェもそれと気づく。
「博物学者も探検家も知らない紋章なんて、あるのカナー」
がさりとヨシュアは自分が複製した地図を広げてみせる。
「どの位置にその紋章があったか分かるかい」
二羽の鳥が背中合わせに描かれていたというその位置を、ダージェは指差した。
「このへんに、こんな感じで」
指は《炎湧く泉》の位置を示している。
「ミルドレッドさんが描いたものだと思うかい?」
「え? 違うの?」
地図はミルドレッドさんが作ったものなんでしょ、とダージェは素直に受け止めているようだ。
「アダマスさん、鳥のような紋章に心当たりはありますか? それに、ミルドレッドさんが説明に来た時、何と言っていたか、覚えていませんか?」
「お嬢さんはそんなことまでは説明しなかった……が」
鳥、鳥、鳥、とアダマスは口の中で繰り返した。
「カッサンドラさんが記号を所持していたから行方不明になったのではないかと思ったんですが」
「……君は、地図を複製している時に魔力を感じたかね?」
いいえ、とヨシュアは首を横に振った。
「でも、カッサンドラさんだけがいなくなった理由が、わからないんです」
強く在らねば耐えられない、という嵐。
カッサンドラがいなくなったのは、強くあったからか、それとも弱さがあったからなのか。
試されるのは何なのか。
「ふう……む」
アダマスは長い吐息をついた。
「何か」
「……引っかかるが、思い出したら伝えるよ。おやすみ、剣士君、博物学者君……また、明日」
背を向け手を挙げたアダマス。おやすみなさい、と欠伸まじりでダージェが呟いた。
が、しばしの逡巡の後ヨシュアは走ってアダマスを追いかけた。
「待ってください」
ぐいと肩をつかむ。
「な、どうしたんだね」
「待って……教えてください」
息を弾ませたままヨシュアはぶしつけとも思える問いを発した。
「カッサンドラさんがもし……正しい道を歩いていて。更に命の危険にあるとしたら……あなたは、あなたはその後を追いかけるつもりはありますか?」
誤魔化されたくない。そう思ってヨシュアは目を逸らさない。
「なんでまた君は、いつもそう唐突なのかね」
「……性分……なんです」
「それがきっと君のいいところなのだろうな。人に愛されるだろう?」
また誤魔化される。
「私は、残念ながら君と違って、人に愛されるような人間ではないのさ」
「ということは盾父。あなたは……」
あなたはカッサンドラさんを犠牲にすることができるのですか。
ヨシュアは唇を結び、そう心の中で尋ねた。
にやり。アダマスが笑う。
「こんな大人にはなりたくないだろう、クラン君」
「……」
「クレドとグロリアも連れて来たくはなかった。まあ、あの子らは放っておいても、そのうち世の中の仕組みを知るだろうし。私や墓守君がどれだけ後ろに隠したところで、顔を出したい、先を見たいとあの子らが思ってしまえば、嫌でももう顔を背けることはできない」
「盾父」
「なんだ。どうして泣きそうなんだ? 君が仮定の話を持ち出したんだろう?」
「泣いてません」
「……そう無理するな。仮定だろ? カッサンドラ君のことはちゃんと取り戻すと言っているじゃないか」
現状においては、です盾父。条件が変われば、天秤が傾けば、あなたはカッサンドラさんを。
ぐるぐると思考が渦を巻く。
「あまり困らせてはいけませんよ」
そっとカインが声を掛けた。
「どっちがどっちを困らせてるのかね」
「……盾父が、ヨシュアさんを困らせましたでしょう」
「聞いていたのか。趣味が悪いね君も」
「聞こえてしまっただけです」
カインは本当に偶然耳にしただけだった。
ミルドレッドを癒そうとして恐ろしくも危険な目にあったというラムリュアを見舞うつもりであったのだ。
「人は知りすぎると、かえって難しいことをたくさん考えてしまうものです」
カインは優しくヨシュアを諭した。
「盾父も」
アダマスを顧みてカインは続けた。
「あまり、難しくおっしゃることのありませんように」
「どっちが盾父だか分からんなあ。まったく」
やれやれとアダマスは欠伸をひとつ。
「光栄です、盾父」
寝床に向かうアダマスを、カインは礼をして見送ったのだった。
■Scene:声と幻(3)
その日は、いつもと変わらぬ砂漠の一日であった。何の前兆もない。
空に輝く立体形の雲が現れ、直後、幻覚の嵐が吹き荒れるまでは。
足元が崩れた――それが合図であったかのように。
ふわりと風が、吹いた。ひいやりと肌を滑る涼感。
動き出す。風と水。
せせらぎ。
視界のすべてに透布をかぶせられたがごとく、白い靄がいつのまにか立ちこめていて。
目の前には結晶を纏った巨木が聳えていた。
『あなたは、だあれ?』
風に乗って声が聞こえた。
そして……その声に応えた者たちが、いた。
「俺は俺だよ」と、シュシュ。
「僕は僕だ」と、フート。
「「あなたは、だあれ?」」
ラージとパーピュアが、同時に尋ね返した。
声を発した者たちは、巨木の周囲に立ち並ぶ半透明の結晶がいっせいに光を放つのを見た。
『私は、私? 俺は、俺? 僕は、僕? あなたは、だあれ? だあれ? だあれ?』
シュシュとフートの身体に、輝く網がまとわりついた。
半透明の結晶から放たれた光が音もなくふたりを絡めとっている。
ラージとパーピュアはわずかに声をあげ、シュシュとフートに近づこうとした。ふたりには、声に答え光に絡め取られた者の姿が靄の中に見えていた。
ラージは糸玉を繰り出した。目に見える結晶物すべてに絡むよう、全力で糸を操る。《精秘薬商会》特製の糸玉はよくしなった。
手ごたえがあった。結晶の木と周囲の結晶柱にしっかりと糸が絡み合った。
これは現実だ。ラージは確信した。
だって掴める。糸が絡んでいる。
けっして実体のない幻覚などではない。ここはごく短い間だけ異界と繋がる場所なのだ。
カッサンドラもこうして答えたはずだと思った。
そして、この場所に僕たちよりも先に来ているに違いない。それならば……助け出すことは、もちろん可能じゃないか。
『教えて! 教えて! 私は、俺は、僕は、いったいなにものなの? 』
結晶の枝に、揺れるものがある。
白い豹が寝そべっていた。
揺れていたのは、枝から垂れた豹の尾だ。
白い豹はラージとパーピュアをじっと見つめて――ふたりはそう感じた――するりと幹を下り、巨木の中へ消えた。
半透明の結晶は光を失い、シュシュとフートの姿も消えた。
衝撃が再びラージとパーピュアを襲った。
ラージがつかんでいた手を広げる。
しっかりと絡んだはずの糸はぼろぼろに劣化していたが、千切れてはいなかった。
■Scene:声と幻(4)
男は辺りを見渡した。結晶化した構造物が立ち並んでいる。
肩に乗っている何かの端をつまみあげる。長く続く細い糸だった。
目の前に、もうひとり男がいる。
「俺は、きみを知ってる」
「僕も、きみを知ってる……けど……」
自分が何者なのか。
それがわからない。
シュシュだった男とフートだった男は、互いに手を伸ばし、そして指先を引っ込めた。
「君は、シュシュっすよ」
「そうかもしれない……君はたしか、フートだよ」
フートだった男は黙り込んだ。
ひどく不確かな名前に聞こえる。それはほんとうに自分の名前なのだろうか?
フートだった男は何をしようとしていたのか?
いや、フートは、何をしようとしていたのだろうか?
「あなたは、だあれ?」
シュシュだった男とフートだった男に、ひとりの子どもが問いかけた。
「あんたは……だれだ?」
見たことのない、年端もゆかぬ少年だ。透き通るような肌に、透き通るような衣をまとった姿。
それとも少女?
「……」
その子どもはかぶりを振った。
「そっか」
それじゃしょうがないね、とシュシュは肩をすくめた。
これからどうしよう。糸の先をぽいと放り投げる。
「ここで何してるっすか?」
フートだった男は子どもに尋ねた。
子どもはつと首をかしげ、
「朝が来るのを待ってるの」
と答えた。
「どうして?」
「……待ってるようにって言われたの。何だかわかんないけど朝がきたらいいんだって」
子どもはフートだった男とシュシュだった男の手をぐっとつかんだ。
「どこに行くっすか?」
「たしかめなきゃ。みんなたしかめるんだから」
ふたりの手を、思いのほか強い力で引っ張る子どもは、にこにことして言った。
「たしかめるって何を」
「あなたがどんなひとなのか」
朝を待つ子どもは振り返ると、とん、とふたりの背を押した。
ずぶ……。
柔らかな結晶の中に、フートだった男とシュシュだった男は飲み込まれていく。
「わあああ」
結晶は薄い鎧のようにふたりを覆い始める。
「……なんだ」
もうひとり、初めて耳にする低い声が聞こえた。
「ただの男じゃないか、ミスト。相手をするのはよしなさい」
「……朝じゃないの」
「朝じゃないよ」
結晶が顔まで達しようとする寸前、フートだった男とシュシュだった男は柔らかな戒めから解放されたのだった。
■Scene:声と幻(5)
幻覚が収まるや否やラージとパーピュアはすぐに今の光景を報告した。
「返事をすると扉の向こうに連れて行かれるのかもしれません」
あくまでも平静にパーピュアは言った。彼女に宿るアメジストは、平静を崩すことを許さないのだった。
「返事をすると……ということは、カッサンドラ君も、例の問いかけに応えたということになるね」
アダマスが真剣な表情に変わる。
「嘘だろっシュシュ兄が!」
「嘘じゃないですよう」
「だって、俺だって!」
とティカは自分を指さした。
「俺だって、なんかそういう質問されたら答えようって、ちゃあんと考えといたんだぞっ」
シュシュとの朝稽古でそんな会話をしたから、ティカは決めていた。
いざ尋ねられたら、アクス・エイブンの子迅雷のティカ、と答えるのだ。答えなければならない。
「でも聞こえなかったぞ! なんにも!」
「今回は……聞こえた」
とエディアール。
「俺も」
クレドはぽかんと口を開けて枯れ木を見つめている。事態をまだよく飲み込めていないようだ。クオンテがそっとその肩に手をおいてやる。
「ということはやはり匂い袋の使用が関係しているようだな。向こう側から、匂い袋を使った者を選んで相手をしているのかもしれない」
エディアールはそう言ってアダマスの表情を伺う。
「糞っ、それでか」
クオンテは無念そうに自分のこぶしに力を込めた。
シュシュのことは気にしていたつもりだった。真っ先に無茶をしそうだったから、側にいて、何かあったら首ねっこをつかんで引っ張り戻そうと考えていた。
だが、声が相手を選ぶことを失念していた。
自分は選ばれなかった――声に、望まれなかったのだ。
怪しげなまじないと忌避した匂い袋を使うべきだろうか。シュシュを取り戻すために、声を聞くために。だがそれは家のしきたりに反することではないか。
「糞っ」
クオンテは繰り返す。
「僕たちは幻覚を見たわけじゃない。糸がここにも残っている。ほら」
手に残った糸を見せるラージ。
「嵐が起きている間、物理的に僕たちのほうが移動している……よく似た場所へ。ここの構造物には糸が引っかかっていないのに、僕の手には残っているもの」
ラージは糸をぴんと引っ張った。《精秘薬商会》の丈夫な糸の先は、はるか空へ……。
頭上の青空につながり、そこから先は定かではない。
「となると、じゃ」
ホールデンはぶんと腕を振り上げた。
「決まったな! 目指す場所がハッキリした。先に乗り込んだ連中は、アタマの上におるってことじゃな! なーに、すぐ連れ戻してやるわい。駄々をこねようが、二、三回お尻を引っぱたけば済むこった」
なすべきことが明確になった途端、強気のホールデンである。彼にお尻を引っぱたかれるカッサンドラの姿を想像し、一行はげんなりした。
「まあまあデンおじいちゃん。行く先はわかっても、行き方はどうしたらいいか」
リュートがひくりと眉を動かした。
「そうでなくちゃ、面白くないよね」
とそんな風に調査隊が大騒ぎしているころ。
空から人間が降ってきた。文字通り、落ちてきたのだ。
どすっと砂にめりこんだのはフートとシュシュだった。砂漠のこととて、さほどの傷もない。
「シュシュ兄〜! よかったああっ」
真っ先にティカがすがりつく。クレドやグロリアも、ぼんやりと焦点の合わぬ目をしているフートにしがみついた。
「ええと……誰?」
「……っすか?」
シュシュとフートは、目の前の兄弟分に不思議そうに尋ねたのだった。
ティカやクレド、グロリアの衝撃はいかばかりだっただろうか。
「ともかくも、戻ってくることはできるわけだな?」
シュシュとフートの目をまじまじと覗き込み、アダマスは言った。
「ならば、やはり次の手は乗り込むことしかあるまい。幻覚との対話が扉になるのなら、何とかしてその時間を延ばし、幻覚を繋ぎ留めておくか……そもそも結界を破壊してしまうか」
キノコ岩のうち、崩れた岩はひとつだけ。
シュシュとフートが束の間とはいえ行方不明になったものの、残りの11本の奇岩はそのままの威容で立っている。
■Scene:声と幻(6)
ミルドレッドが目を覚ます。
ぼんやりとした視線が結んだ像を確認して、言葉を漏らす。
「……ダル……いい匂い……」
「ミルドレッドサン!」
「夢じゃなかったんだ……誰かが助けてくれた、夢を見てたと思ったけど……」
ぐう、とミルドレッドのおなかが鳴った。
はっと女学者は頬を染める。
「あ……そうだよね。おなかすいてるでしょ! あのね、おいしいご飯があるからラムサンに頼んで今」
ミルドレッドはダージェの手首をつかんだ。
「これ、渡しとく」
何かをダージェにつかませ、ミルドレッドは寝床から立ち上がった。レディルが開けることができなかった小箱であった。
「だめよ、まだ」
ラムリュアがミルドレッドを支えるが。
「放してくれよ、あんたたち誰だ?」
「随分ね」
ミルドレッドの物言いに、ラムリュアは思わず眉をひそめる。
「私はラムリュア。ダルの友人で、あなたの回復に努めていた者よ」
「《魔獣》は……巣穴はどうなった? 扉は……」
ダージェの表情を見てミルドレッドは唇を結んだ。
「行かなきゃ。ダル、一緒に来てくれ……《魔獣》が結界を破って外に出る前に」
そう言って身の回りのものを引っつかむミルドレッド。
慌てるダージェに、駄目、とラムリュアは目を細めて却下した。
「ご飯が先よ」
彼女のために作られ取り分けられていた食事を差し出す。
ぐう、と再びミルドレッドのおなかが鳴った。
第4章へ続く