その頃、ジャン、ファーン、アゼルの3人は、少年に呼ばれたとおり門で待っていた。少年はすでにそこにいた。冒険者たちの他に誰もいないことを確かめると、彼は声を潜めて言った。
「あのね、さっきの話なんだけど」
「ああ、神様の」
「こっちについてきて! こっそり」
少年がさらに向かったのは、もう《星見の里》の外である。そこには砂色のマントに身をくるんだ人影が、小さくちぢこまっていた。
「この人が、さっきの話を僕に教えてくれたの。ねえ、持ってきたよ」
少年が砂色マントに声をかける。3人は思わず身を堅くした。銀色の髪だと思ったのである。しかし予想に反して、マントの奥から聞こえてきたのはくぐもりかすれた声だった。
「水……」
はい、と少年が差し出した水袋を細い腕で受け取り、マントのフードを跳ね上げて一礼したその人物は、禿頭の男性だった。老年に達しようかという男性は、その水を喉を鳴らして飲みほした。
「《大陸》からきたのですか?」
声をかけたのはファーンだった。禿頭の男性に、朱印がないのを認めたのだ。無防備な頭にいくつも火ぶくれをつくっている男性は、無言でうなずいた。目の焦点が合っていない。灼熱の砂漠の旅を続けて、目を痛めてしまったのだろうか。足はさらにひどい水ぶくれになっていた。その神官の首元に、ちいさなペンダントがきらりと揺れる。
「金色の剣の聖印……ほな自分ら《痛みの剣》教団の神官か? こいつは驚いたな」
ジャンは瞬時に正体を見定めていた。秘密の《大陸》との通商ルートの存在を疑っていたが、宗教がらみとなると話は別だ。彼は《星見の民》に招かれざる客なのだろう。そうでなければ、パレスがしたように、堂々と門から入れるはずだから。
「どうしてはるばる砂漠越えを?」
注意して耳を傾けなければ聞き取れないほどの、かすれた声で答えがあった。
「私は巡礼。偉大なる言葉に従い聖地に向かう。すべからく見よ、我ら《大陸》の聖典は偽典なり」
支離滅裂な言葉の間にどうにか神官の話をつかむ。巡礼の旅の途中に砂嵐に襲われ、らくだと積荷を失ってしまったものらしい。
「巡礼ですって?」
「なあ神官さん、その巡礼さんてのはよく行われとるモンなんか?」
「巡礼。我こそ万人を……ふはははは、万人を代表せし巡礼」
聖地といえば《大陸》でも屈指の大神殿を持つアストラが有名だ。《痛みの剣》も、フィーナの所属する《愁いの砦》も、本山をアストラに構えていたはずである。怪しい。しかし神官が嘘をつくだろうか?
「微妙なとこやな。……いやいや」
ごにょごにょ、とジャンはごまかした。厄介ごとが増えるのは、むしろ歓迎である。
「でも、らくだを失っただけで幸運ですよ」
「そうそう、このあたり、恐ろしい怪物が出るんですから。いえ、脅しているわけではないんですがねえ。ほんとに無事でよかった」
痩せさらばえた神官は怯えた表情で3人をかわるがわる見つめた。どことなく、死んだ魚のようなにごった色だった。
「で、あなた方の聖地が、この《忘却の砂漠》にあるのですか?」
「古い、古い文献に。聖地を示した言葉が。見よ。我らの聖地は《忘却の砂漠》にこそ在れり」
ふは、ふははははは……。
力なく笑い、ごほごほと血を吐きそうに咳こみながら神官が取り出したのは、黒い革表紙の分厚い書物だった。
第4章に続く
はい。お疲れさまでした。長いですねー。長すぎましたね。いろんなことが起きている《星見の里》です。どれでも面白そうだと思ったことに関わってみてください。基本的になんでもアリですので。ここまでのボリュームにはならないようにしないと。
ちなみにそろそろ《地雷》が発動しております。指針選択即地雷ではもちろんありませんが、誰かにクリティカルな問いかけをしたり、行動をしたりすると、キャラクターが素敵な状況に陥る可能性もございます。地雷カモン!って方は歓迎します。
ということで次章の指針について。洞窟探検組は都合により洞窟の中にとどまっています。パレスとアインも洞窟組です。彼らに対して何かしようと思ったら、出かけていくしかありません。注意点はそれくらいですね。
アクションをどれくらいの文章量で書けばいいのか分からない、という問い合わせが数件ありました。短いとキャラクターがやりたいことは分かっても、それを行動に移す理由や想いまで見えません。また長すぎると、物語で描写できない部分が多くなってしまいますし、指針をまたぐ行動(たとえば離れた場所で行動する)はリスクが大きくなり、成功しにくいものです。ポイントとなるのは、キャラクターの動機「なぜ、その行動をとるのか?」。それが押さえてあれば、こちらも非常に書きやすいというのが本音です。
それでは、また《忘却の砂漠》で。
そうそう、もうすでにご存じかもしれませんが、新掲示板《精秘薬商会》がOPENしております。基本的にキャラクター発言のみ可のパラレルワールドです。が、ここでできた設定など、物語本編に影響することもある、かもしれません。ご了承くださいませ。